chihiroxs’s blog

ちひろです。

あの子はどこへ

居酒屋で働いている。

お酒があるところドラマあり


週末の忙しい時間帯

席もそろそろ満席だ

コロナコロナと言われても

賑わっている店内


小さい子供ふたり家族連れの

オーダーをとっていた


隣の席でガチャン!という音

居酒屋でグラスを倒したり割ったりは

日常茶飯事なので驚かない


割れてたら面倒臭いなぁと思い、

オーダーをとりながらちらりと見る


…空気が非常に悪いカップ


彼女が彼を睨みつけている

瓶ビールのグラスを彼に向けて

パーンしたのがさっきのガチャンか。


良かったグラス割れてない


お酒の勢いで喧嘩したり

別れ話はじめたりもたまにいるから

穏やかじゃないねぇと思いながら

見て見ぬ振りをする


こぼしたビールの上に

雑に置かれたおしぼりを

彼女が手に取り涙をふいた


汚い…てか臭くないか心配する


冷戦状態が続いていると

彼女はおもむろに靴を履き(座敷席)

リュックを背負った


あー、解決を諦め先に帰るのか

逃走パターンだな…

と、思いながら眺めていると


彼女は一度背負ったリュックを下ろし

振りかぶり彼へ華麗にリュックをぶん投げた。


ほぼ満席の客たちもそこへ視線が集まる


…えー。どしたのー


思わず隣の子連れ家族の

子供が心配になり目をやると

ニヤニヤしながら親の目を盗み

こちらへ口の中の噛んだ食べ物を

あーんと見せてきた。


うん、安心した。


リュックを見事に打ち込んだ

みんなの視線を独占したその彼女は

彼に手を掴まれて棒立ちしている


彼は何も語らない

ただ無言で眉毛をたらして

ただただ彼女の手を握っていた


彼女は先ほどまでの沈黙を破った。


「お前いくつだよ!!!」

(いくつなんだろう…人の年見分けるの苦手だな…)


「なんでわたしを悪者にするんだよ!!」

(悪者にされたの?そこ詳しく…)


「わたしだって普通に生きたかったよ…(号泣)」

(普通…とは!?)

 

 

全然話が掴めねえ…

ただ…ごめん

退屈しなくて楽しくなってる


散々怒鳴り散らしたあと

彼女はまたリュックを背負い

靴を履き去っていった


残された彼。

痛いほど視線を浴びている


ふと目が合うと

捨てられた子犬のような顔で

「すいません、お会計で」

と、手でバツ印を作った


何故だろうめちゃくちゃ吹き出しそう。

マスクありがとうと感謝した

口元が見えないマスク、ありがとう。

 

グラスをパーンしたり

リュック投げつけたり

人目も気にせず怒鳴ったり


それは良くない

良くない事をさせるまでの過程があるのか

ただの短気かは分からない

 

ただ、その一件があった

数時間後に彼女が店に来た

我々従業員はお互いに目配せをする

ど…どうしたんだ…?


「折り畳み傘の忘れ物ありませんでしたか?」

 

へ!そこ?そこなの?

リュックぶん投げた拍子に落ちて

彼が持って帰ったんじゃないかな

この2、3時間あなたどこ居たの…

お顔も随分ボロボロで…


聞きたいことは

止めどなく出てきたけれど


「忘れ物はありませんでしたよ」

の一言しか告げられなかった


彼女と彼は今頃どうしているのだろう。


勝手な想像だけど

こういう2人って

結局また寄り添ってそうだな


ギャラリー湧かせるほど

元気な喧嘩できるんだもん


ひとつひとつの恋愛に

何のお手本も無いしな。


またいつか2人で飲み来たら良い。

 

印象だけで姿はもう忘れた2人だから

来たところで気付けないのだけど

 


次は楽しいお酒だといいね。

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